地獄の底から見上げてろ
それから、鶴見中尉殿を拘束して隠し、金塊を五稜郭の井戸から見つけ出し、奥田中将へあてた手紙にほんのわずかの細かい砂金を入れて状況報告をした。ロシアのパルチザンが乱入し、菊田が戦死。列車での交戦中に鶴見は死亡。そのまま列車は海に落ち、鶴見が率いていた小隊はほぼ全滅。アイヌが金塊の半分を費やして得た土地の権利書はたしかに奪い取った。残りの金塊の所在も明らかである。詳細は東京で報告する。
鶴見中尉殿とともに船と列車を乗りついで、東京に着いたあと、鶴見中尉殿を宿へ泊まらせた。多少身なりを整えて御目通りした奥田中将は、片目を理由に暗に退役をせまってきたが、冗談じゃない。目もからだもずいぶん痛めつけられたから、金塊の所在も、今日うっかりと”忘れてきた”権利書の場所も思い出せなくなるだろう、と言うと、案外素直に受け入れられた。金塊と権利書が引き換えならば、陸軍士官学校の免状と少尉の肩書程度ならくれてやってもいいと思われたのだろう。ふつうなら、兵卒上がりでなんの後ろ盾もないおれはここから中尉、大尉、少佐と階級を進んでいくことはできないのだから、安いものだったはずだ。
だが、おれには鶴見篤四郎がいる。
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