月に血曇、太刀に絹

 ――なにを見ているかって、ほらあれだ、あの茶室のところ、黒いのと青いの。きみにも見えるだろう。同田貫殿と三日月殿だ。手なんかつないで、まあ。いやはや、仲が良くてよろしい、たいへんよろしい。そうだよ、まただ、またあのふたりの話だよ。なんだ、わたしが彼らをよく見ているって言うのか。そりゃあきみ、あたりまえだろう。
 え? ああ、わるかったね、そうか、きみは知らないんだっけ。そうか。そうだね、みんな話したがらないだろうしなあ。あれからそんなになるか。うーん、彼らから目を離すと、ろくなことがないっていうことかな。簡単に言えばね。
 ちがう、はぐらかすわけじゃないよ。聞きたいなら話すよ。ああ、聞きたいんだね、はいはい、わかった。話すよ、話すとも。え、恋話? うーん、そうなるのかなあ。

 いやしかし、どこから話したもんか。ええっと、まず、同田貫殿と三日月殿が恋に落ちました。……くわしく? そのへんはわたしも知らないな。そこが大事なのか。でも知らないんだ。残念だね。そう、本人たちに訊くしか――いや、まあ、うん。ほかの刀剣から聞いた話だけど、同田貫殿は食べものに弱いらしくてね、三日月殿はそれに目を付けてちょくちょく菓子だのなんだの、あげていたらしいよ。周りからは『小鳥みたいな求愛をしている』なんて言われて、笑われていたって。このぐらいかな、わたしが知ってるのは。
 わたしが、彼らが恋に落ちていたことを知ったのは、もう全部終わったあとだったな。あるとき、同田貫殿と三日月殿がいなくなったんだ。刀剣たちは、わたしに命じられて、どこかへ行っているんだろうと思っていたし、わたしはわたしで、気配が遠くなったのは感じていたけれど、てっきり散歩か買出しにでも行っているのかと思っていた。三日月殿はそういうことが好きだったからね、同田貫殿を誘って町にでも行っているんだろうと。だから気にもとめなかったんだが……。だが違った。まず、誘ったのは三日月殿ではなくて同田貫殿だったし、行った先も、町じゃなかった。
 夕暮れをすぎて、三日月殿を背負った同田貫殿が帰ってきた。ふたりともぼろぼろでね、ぼろぼろと言うかずたずたというか血みどろというか……そのへんはちょっと説明したくないな。要らないだろ? だよね。本丸の門前で気が緩んだのかばったり倒れていて、それを戸締りに行った……だれだったかな。そう、たしか山姥切殿だ、彼が見つけてあわててわたしに報告に来たんだ。それはもうおどろいた、わたしもみんなもだよ。本丸に歴史改変主義者か、検非違使が殴りこんできたのかと思ったんだ。でもまあ、あとでわかったことだけど、これも違った。
 とにかく刀剣たちに本丸周囲を警戒してもらって、同田貫殿を手入れ部屋に放り込んだ。三日月殿はもう、手入れ部屋に入れるまえに折れてしまった。もたなかったんだな。破壊された刀剣を見るのなんてはじめてでね、このへんもあまり説明したくない。くだけたはがねのかけら、三日月殿のかけらを見て、ちょっと泣いたよ。みんなもずいぶん消沈したし、とりわけ、三条の刀剣たちの落ち込みようと言ったら、なかったな。
 同田貫殿が目覚めるまでのあいだ、ほんとうにわけがわからなくて参った。出陣したわけでもない刀剣が重傷、破壊されるなんて、いままでなかったことだからね。本丸周囲に異状は見られなかったけど、出陣も遠征もすべて取りやめにして、本丸にこもって。刀剣たちは掃除だとか畑仕事だとかをやっていてもらったけど、彼らも不安だったろうな。政府にはいちおう、報告と、ほかの審神者から似たような報告が来てないかという問い合わせをあわせておこなったんだけど、追って連絡する、ってそれだけだったから。
 それで、数日後にやっと目を覚ました同田貫殿に話を聞いたんだが、これがもう。同田貫殿は起きるなり、わたしに言うんだよ。三日月殿がどんなに強くて、どんなに立派に戦ったか、どんなにそのさまがうつくしかったかということを。その三日月殿が折れたと聞いても、芳しい反応はなくて。ただ、残念だとは言っていたけど、それよりも、ってふうに、夢中で話すんだ。
 でも、とにかく事情は訊かなくちゃならなかった。ずいぶん根気が要ったな、すぐに話がそれて。なんとかわかったことは、敵襲なんかじゃなくて、同田貫殿が三日月殿をつれて、わたしに知られることなく無断で出陣したってことだった。
 わたしの力なしで、いくさ場に行けるものかって? ああー……それがねえ、じつはねえ、行けるんだよなあ。はじめはたしかに、わたしの力なしでいくさ場へ行くこと、つまり過去へとぶことはできない。でも、わたしがいちど道を開いてしまえば、その道への行きかたさえ覚えていたなら、まあ、行けないことはないようなんだ。多少、刀剣に消耗があるようだけど。同田貫殿はその手を使ったんだな。むろんいまはできないよ、だからきみに話しても問題ないんだ。毎回道をふさぐようにしてる。正直ちょっと手間だね。
 同田貫殿の話を聞いて、とりあえずは、ほっとした。敵襲でなかったわけだから、もうびくびくしてすごさなくていいわけだ。わたしも、刀剣たちも。だが、こんどは、同田貫殿はどうして三日月殿をいくさ場に引っ張り出したりなんかしたんだ、っていう問題になった。それで聞いたよ。そうしたら同田貫殿はこう言った。あんたこそ、なぜ、あのひとをいくさ場に出してやらなかったんだ、どうしてそんなむごいまねができたんだ、とね。
 ちょっと説明が要るかな。わたしはその、折れてしまった三日月殿をいちどもいくさ場に出したことがなかったんだ。理由はあったよ。そのころ、政府からくだる出陣命令はなかなか厳しいものばかりで、まだこの本丸に来たばかりの三日月殿を出陣させることはとてもできなかった。手入れ、手入れで資材が足らないから、遠征もそう安全なところを選んでいられない。
 いや、それ以上に、わたしは気後れしていたな。三日月殿は不殺の刀と呼ばれるだろう。その刀を、いまさらいくさに引っ張り出して、敵を殺せと命ずることが、なんだかおそろしかった。三日月殿に、退屈じゃないかといちど訊いたら、俺はいくさには慣れておらぬからこちらのほうがよい、なんて言われて、そのころのわたしは安心していたけど、わたしのことを慮ってそう言ってくれたのかもしれない。ほんとうのところはどうだったのかな。いまとなってはわからない。
 そして、思えば、同田貫殿もそのことを気にかけていた。何度か、三日月さんは出陣させてやらねえのか、と訊かれたことがあった。わたしは、もうすこし状況が落ち着いたら、とはぐらかしていたけど、じっさい、状況が落ち着いたところで、わたしが三日月殿を出陣させられたかは、正直あやしい。
 しかし、だからといって、いちども出陣させていない三日月殿を、第一部隊でしのぎを削っていた同田貫殿が重傷でもどるようないくさ場に連れ出すなんて無茶だ。それも、たったふたりで、だよ。なにより、わたしの許可なく出陣したことは重大な違反だ。同田貫殿と三日月殿が重傷、破壊でもどったこと、その理由がしれないことはすでに政府に報告してあったから、当然、判明した事実も報告しなければならなかった。政府からの返答はこんどは実にはやかった。刀解せよ、と。順当な処分だ。歴史改変のおそれもじゅうぶんにあったわけだから、そんなことをゆるしていては、他の刀剣たちにしめしがつかない。わたしの管理不行き届き、と言う点は、多少書面でお叱りがあった程度かな。こっちはあまり順当な処分とは言えないね。
 処分のことを告げても同田貫殿はさして動じなかった。ひとりで出陣して、折れるまで戦うのはだめなのか、と訊かれたよ。許可できないと言っても、素直に受け入れた。ゆるされないことをしたと、わかっているようだった。
 わたしはなんだか腹が立ってしかたがなかった。同田貫殿は、条理のわからないような、そんな刀ではなかったから。それが、三日月殿を破壊して、己自身も刀解されるような、そんなおろかなまねを、なぜ、とね。あのときはけっこうわたしも追い詰められていて、……だってそうだろう、いきなりふってわいたように三日月殿が破壊されたかと思えば、こんどは同田貫殿を刀解だ、もう、無性に苛立って、同田貫殿をなじったよ。三日月殿を勝手に連れ出して破壊させてしまうとはどういうことだ、なんのためにそんなことをしたんだ、おおむねこんなことを言ったかな、もっとひどいことも言ったような気がするな。実にみっともないまねをした。
 同田貫殿はすこしも動じずに、わたしをにらんで、こう言った。つかわれない道具ほどあわれなもんを、俺は知らねえ、あんたはあのひとに、あんなむごいまねをするべきじゃなかったんだ。わたしが、おまえが三日月殿にした仕打ちは、むごいまねとは言わないのか、と言ったら、いくさ場に散るのは誉れだと返された。それきり、同田貫殿は口をきかなくて、その翌日に、刀解した。
 刀解にともなって、すこしばかりの資材が手に入ったけれど、それを手入れだなんだに使うのは、なんだか気が引けて。どうしようかと考えあぐねていたら、五虎退殿が、その資材を、三日月さんのかけらと一緒に埋めてあげられませんか、とこう訊いてくる。わたしが、なぜって訊いたら五虎退殿は教えてくれたよ。おふたりは好きあっていらしたんです、って。最初に話した、そう、『小鳥みたいな求愛』についても、五虎退殿が教えてくれたんだ。ほんとうに好きあってらして、しあわせそうだった、なのに、どうしてこんなことになってしまったんでしょう、って言って泣いていたな。
 五虎退殿の言うとおりにしたよ。断る理由なんかなかったしね。まあ、三条の……小狐丸殿はいやそうな顔をしてたかな。小狐丸殿は狸の首を落とさせてくれと、わたしにねじ込んできたくらいだったからなあ。

 まあ、それで、ひと振りめの三日月殿も、同田貫殿も、この本丸からいなくなってしまったってわけだ。目を離せない理由がわかっただろう。
 同田貫殿がひどいって? いやいや、あれはわたしのせいでもあるよ。同田貫殿の話を、はぐらかさずきちんと聞いておくべきだった。なんだかんだ、後ろめたかったんだな。ずっと三日月殿を本丸に留め置いたことが。だからはぐらかして、彼があれほど思いつめていることに気づかなかった。それに、ちゃんと道を閉じていれば……これは言ってもどうしようもないな。根本的な解決になっていないし。だがしばらくは、そう考えると眠れなかったなあ。
 ああ、そうだね、わたしが呼びだした刀剣男士で、折れたのも刀解したのも、三日月殿と同田貫殿だけだ。ほかはみんなひと振りめさ。きみもそうだよ。ふた振りめ……あー、うーん。うん。うーん……いまの同田貫殿と三日月殿は、ふた振りめじゃないんだよなあ。うん。三振りめだよ。そう、あのふたりだけ。うーん……さっきの話もしたからには、こっちの話もしなけりゃならないんだろうなあ。わかった、するよ。ながくならないようにする。夕餉の時間にかかるから。

 この話もおなじところからはじめるか。三日月殿と同田貫殿は恋に落ちました。このへんのことは、やっぱりわたしは知らない。運命なのかな? 三振りめまでおなじ相手と恋に落ちてるからね。呪いかもな。いや、冗談だよ、たぶん。
 まあ、わたしは彼らのなれそめも知らないんだが、それでも、ああ、恋をしてるんだなあと気づくようなことはあったよ。まえは、ひと振りめのころはそうなんだと知らなかったけど、ふた振りめのときには知っていたわけだからね、見る目も変わる。五虎退殿の言ってた、ほんとうに好きあってらして、しあわせそうだった、って、こんなふうだったのかなと思ったりもしたよ。『小鳥のような求愛』も、拝見したね。
 そしてまたあるとき、だ。あるとき、三日月殿がわたしに相談ごとをもち掛けてきた。たいしたことじゃない、すこし散歩に行きたいが、正国をつれて行ってもかまわないか、と。わたしは許可した。三日月殿は喜んで、遅くはならないように、と言ったわたしに、わかったと言った。そうして出かけていって、それから三月、ふたりはもどらなかった。
 わたしとわたしの呼びだした刀剣男士には多少のつながりがある。だから知ろうさえすれば、どこへいようとそれとわかる……はずだったんだが、これがさっぱりわからなかった。敵にとらわれたのか、三日月殿か同田貫殿がなんらかの手段を講じたのか。わたしはその時点ですでに、三日月殿だと思っていた。勘でしかなかったけれど。でもそれがわかったところで、どうにもならない。生きていることは薄ら伝わってきても、どこにいるか、なにをしているか、なんていうのはまるで霞をつかむようにぼやけていた。むろんのこと、捜索の役には立たなかったね。
 政府にもこの件を報告してね、問題がよく起こりますねなんていやみを言われたりしながら、ふたりを捜索したよ。見つからなかったけどね。見つからないあいだ、わたしは悶々と考えていた。ひと振りめの同田貫殿は、わたしが三日月殿をきちんとつかってやらない、むごいまねをするからと、それを見かねて三日月殿をいくさ場に連れ出した。じゃあ、ふた振りめの三日月殿は、いったいなんのために同田貫殿を連れ出したんだろう。まあ、どんなに考えたってわかるものじゃなかった。
 そして三月後に、三日月殿は急にもどってきた。同田貫殿を背負って、まるで三月の空白なんかなかったように、こまったことになった、なんていうものだから、わたしはあきれたよ。だが、あきれている暇なんかなかった。同田貫殿はひどいありさまだった。体じゅうに、こう……赤紫色のあざが浮かび上がってた。目はうつろで、名前を呼んでも反応しない、体がひどく冷えてぐったりしているもので、死体のようだった。三日月殿は、しばらく具合がよくなかったが、きのうから急にこうなった、と言うんだ。わたしはまったく信じられなかった。いや、三日月殿が嘘をついているとは思わなかったけれど、たった一日でこんなにも変調が起こるものだろうか、ということがね。
 とにかくなにか治療をしなければと、三日月殿から同田貫殿の刀を受け取って、まず鞘から抜こうとしたんだ。だが抜けない。刀が鞘にぎっちり嵌まり込んでしまっていて、すこしも動かないんだ。おかしいだろう? 鞘から抜けない刀だなんて。仕方なしに、鞘を削って、割って、なんとか刀身を引っ張り出したんだが、これがまたひどい状態だった。まったく錆で覆われていた。それだけじゃない、目釘を抜いて柄から外したら、茎までひどくさびていた。尋常じゃないっていうことだけはわかったよ。鍛刀をしている式神を呼んで、すこし錆を削ってもらったんだが、すぐに、これはもうどうにもなりませんと言われてしまった。どうしてこうなったのかわからないが、ほとんど芯まで錆びているようだ、ひどくもろくなっていて、錆を削っているうちに折れてしまいかねないし、そもそも、錆をすべて削ったところで、砥げるはがねは残らないだろう、と、こうだ。
 なんだかわたしは、わるい夢でも見ているような気分だったな。だって、ひと振りめの同田貫殿と三日月殿のことを、繰り返しているみたいじゃないか。役割だけが変わって。わたしが三日月殿を刀解しなければならなくなることも見えすいていた。まったく繰り返しじゃないか。
 ただ、ちがうこともあった。ひと振りめの同田貫殿は実に堂々として、悪びれることもなかったし、自分が正しいことをわずかでも疑うようすもなかった。けれど、ふた振りめの三日月殿は、ぐったりした同田貫殿のそばで、ひどく憔悴した顔をして、こんなはずではなかった、と言っていた。錆び切った同田貫殿の刀を、布にくるんで枕もとに置いて、三日月殿に、同田貫殿はもうもとには戻らないと告げたときの、彼の顔と言ったら。わたしがわるいことをしたような気分になった。
 そして、三日月殿に、なぜこんなまねをしたのかと問うた。同田貫殿にもおなじようなことを訊いたな、と思いながらね。怒りがないわけではなかったけれど、それ以上に、妙に疲れていた。徒労感というか。それで、同田貫殿にそう訊いたときのように、取り乱さずにすんだ。まあ、三日月殿がそれはもう、ほんとうに落ち込んでいて、かわいそうなくらいだったせいもあるかもしれないな。
 三日月殿は言ったよ。もう二度とふたたび、正国をいくさ場に出したくなかったのだとね。ひとは、なぜいまになって、刀をいくさ場に引きずり出すのか、傷は刀身をほそらせ、血脂は刃をにぶらせる、そうやって刀のいのちを縮める、そうやって擦り減らされる刀たちほどあわれなものはない、なぜいまさら、過去にさかのぼってまで、我らをつかおうとするのか、なぜこのような無体なまねを強いるのかと。わたしはなにひとつ言うべき言葉を見つけられなかった。
 その翌日に、同田貫殿の息は絶えて、刀も折れた。どちらが先だったのかはわからない。あとで政府から教えてもらったのだけど、刀剣男士を、あまりにも望まざる状況に置くと、まれにそういうことが起こるらしい。意志がつよい者ほど起こりやすいとか。わたしがなにかその……まあ……同田貫殿に、なにか、強いたというか……そういう、望まざる状況というのをつくったんじゃないのか、と、やけに疑われたな。そういう審神者の前例は、枚挙にいとまがないらしいよ。
 三日月殿は同じ日に刀解した。そのまえに、三月のあいだのことをすこし話してくれた。彼らはふつうの人間のように暮らしていたみたいだ。同田貫殿が風邪をひいたように体調をくずしたのは三日月殿が本丸へもどってくる、一週間前ほどのことで、それからみるみるわるくなったのだと。それまでは、ほんとうにしあわせだったと言った。
 わたしとのつながりを断たず居場所をくらます方法は、教えてくれたけれど、それはまあ、きみにも言えないね。まだ有効なんだ。政府が対策を講じてくれているようだけど、できるものかな。ああ、いや、余計なことを言った。忘れてくれ。
 三日月殿を刀解してから、三日月殿と同田貫殿のことについて考えた。正確に言えば、ひと振りめの三日月殿と、ふた振りめの同田貫殿のことだけど。
 ひと振りめの三日月殿のことは、彼自身も、いくさ場に出られないことに関して、ほんとうは忸怩たるものがあって、だから同田貫殿と共にいくさ場に赴いたものだろうと、わたしはずっと考えていた。だけれど、それはちがったのじゃないか。彼は、ほんとうに、いくさに出ることを望んでなかったんじゃないか。ふた振りめの三日月殿がそうだったように。だけど、同田貫殿が、三日月殿をいくさ場へ連れていくことを望んだから、そういう刀のありようを望んだから、それに従ったのじゃないか。ちょうど、ふた振りめの同田貫殿が、病に陥るほど意志を反してまで、三日月殿の望むおだやかな生活に殉じたように。
 わたしの願望かもしれないな。こう考えればすくなくとも、ひと振りめの三日月殿には申し訳がたつ。

 ――さて、いまのところ、ふたりの話はこれでおしまいだ。恋話だったかな? しかし、これできみも、あのふたりから目を離せない理由が、真実わかったものと思う。はた迷惑? ああ、そうだね。あのふたりは水と油、氷と炎ほど性質も価値観も異なっていて、本来なら反発しあうか、歯牙にもかけずにすますか、まあ、どちらかを選んでやって行くものだと思うんだが、どういうわけだかあんなふうに惹かれあってしまって、大問題を引き起こすんだよ。
 二度、すでに起こっている。三度めはなんとしても、勘弁願いたい。彼らが三度めの正直であることを、あのふたつの大騒動に巻き込まれた面々は切に願っているわけだけれど、きみも知っているように、二度あることは三度あるとも言うんだよなあ。頭が痛いよ。話をきいて事情をのみこんだからには、きみも彼らをよく見ておくようにしてくれ。まあ、きみが見なくてもわたしが見なくても、ほかの刀剣たちが冷や冷やしながら見ているけどね。
 おや、もう夕餉の時間だ。さきに食べておいで。わたしはあとから行くよ。