月島ちんぽニット

 鶴見が最近、いつもはのんびりと読書をしている夜の時間に編み物をしていることを月島は知っていた。月島はその姿を見るたび、きゅんと胸がうずいた。たぶんおれのだろうな、そう思っていたし、月島が柄にもなくもじもじしていると、鶴見は笑って「おまえのだよ」と言ってくれた。鶴見が月島のためだけに時間をつかい、手をかけて、なにかをつくっている。なんと幸福なことか。
 手づくりなんて重い、ましてや手編みなんて、そんな話を昔どこかで聞いたことがあったが、月島には信じられなかった。手づくり、手編み、いいじゃないか。なにが悪いんだ。重い? なにが重い? ちっとも重くなんかない、仮に重くったっていい。それは愛の重さじゃないか、愛の証明じゃないか。
 鶴見は「編み物ははじめてだから期待しないでくれ」とはにかむように言っていたが、たとえぐじゃぐじゃの毛玉になり果てたとして、月島はいっこうにかまわなかった。堂々とそれをつかって出かけるし、職場にも行く。そう決めていた。
 月島の覚悟と裏腹に、金色のリボンでラッピングされた袋から取り出した、うねうねとした模様が浮かぶ、深くざらざらした緑色の帽子とマフラーは、店に出しても売れるのではないだろうかと思える出来栄えだった。鶴見はあらゆることを人並み以上にこなす。それは編み物でも遺憾なく発揮されたのだろう。
 はしゃいだようすで鶴見は帽子を月島にかぶらせ、「カワイイカワイイ!」と称賛した。スマートフォンでまえから後ろから横から上から下から何枚も写真を撮るのには閉口したが、楽しそうな鶴見を見るのは月島も好きだったから、されるがままに撮られていた。
 写真を撮り終えると、鶴見は感極まったように月島を抱きしめた。
「月島、わたしのかわいいどんぐりちゃん!」
 そういって帽子の頂点にくっついた毛糸の丸い飾りを撫でる。月島は「これは要らなかったのでは」と口をはさんだが、鶴見はふうっとため息をついて、「それが重要なんだよ、月島」と重々しく告げた。どう重要なのかは語らなかった。
 さらにマフラーも巻いて、冬とはいえ屋内ではやや暑く感じるほど厚着をさせられた月島を見て、鶴見はウンウンとご満悦だ。いろんな巻きかたを試し、帽子の角度を調整したり、余念がない。
「おまえは寒くてもマフラーなし、坊主なのに帽子なしで耳を真っ赤にさせているからなあ、あたたかいものを贈りたかったんだ」
 鶴見の指が月島の耳たぶを軽く引っ張る。月島は冬は寒いものだと思っているし、耳はつめたくなるものだと思っているし、寒くとも耐えればいいと思っている。鶴見は月島の、あたりまえのように耐えてしまう気質にときどき、耐えなくてもいいのだとしめす。月島自身も気づいていないようなことまで。そうやって相手を気遣って、悪癖を治そうとしてくれるのは、愛以外に形容しようがない。
 胸にせまる思いがあって、月島はせつないような泣きたいような気分になった。
「ありがとうございます。大切にします」
 言ってから、月島は盛大な羞恥心がわきあがるのを耐え、鶴見の頬を手で挟んで引き寄せて、つま先立ちになってくちびるにくちづけた。くちづけを受けた鶴見はにこにこ笑って、もっとたくさんのキスを月島によこす。目もと、頬、あご、低い鼻、額、それから帽子につつまれた坊主頭。
「プレゼントはまだあるんだ」
 鶴見が月島から体を離し、かがんで月島が落とした袋を拾い上げ、ごそごそとさぐっている。
「え!? あなたの誕生日だってことわかってます!?」
 月島は自分のセンスが信じられないから、鶴見を百貨店に連れて行ってほしいものを選んでもらった。何でもいいのにな、とちょっと不満そうに言う鶴見にきゅんとしながら買ったのは、月島の安月給でも買えるように見繕われたネクタイとコインケースで、それぞれ誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントのつもりでいた。なのに、鶴見は帽子とマフラーのほかにまだ月島へのプレゼントがあると言う。月島は誕生日でもないのに、これではまったく勘定が合わない。
 しかし鶴見は袋をさぐりながら、「わたしへのプレゼントでもあるからな」とどこか浮き立ったように言い、「あった」と取り出したものを月島に差し出した。月島は戸惑いながらもそれを受け取る。
 それは赤と緑のしましまのニットだった。袋状になっていて、月島は帽子とマフラーをもらっていたこともあり、手袋かと考えた。だが、片方しかなく、指を入れるはずの部分はミトンのように二本あるものの、長かったり短かったりで手が入りそうにない。ぷらん、と毛糸が編まれた紐が垂れる。そのさきには、帽子のてっぺんについていたものをちいさくしたような毛糸玉がくっついていた。
「鶴見さん、これは……?」
 月島がいぶかしく思い鶴見を見上げると、彼は目もとをゆるめて笑っていた。慈愛すら感じるその視線、整えられた髭のしたできれいに弧を描くくちびる。それがひらいて、
「それはちんぽニットだ」
 と言った。
「え?」
 思わず声が漏れた。おれはたいへんな聞き間違いをしたのでは? そう思って、月島が弱弱しく「すみません、もう一回……」とつぶやくと、鶴見は頷き、ふたたび言った。
「それはちんぽニットだ」
 聞き間違いではなかった。
「ちんぽ……ニット?」
 思わず繰り返してしまう。ちんぽニット。ちんぽニット? 鶴見は普段ちんぽなんて言わない。そもそも成人をすぎてちんぽの話をする機会はそうそうない。鶴見がちんぽと言うのは、月島とのセックスの最中で、舐めて噛んで吸ってくじって、それでもがちがちに勃起したちんぽの挿入を我慢しつづけたときにやっと、「月島のちんぽがほしい」と口にしてくれるのだ。月島は鶴見の上品な口から聞く「ちんぽ」という響きも、鶴見からあられもなく求められることも好きだから、月島にとって鶴見の言う「ちんぽ」は特別なものだった。
 いや、それよりもちんぽニットの話だ。月島は手のなかにあるちんぽニットをさぐった。あらためて見るとなるほど、ちんぽニットは確かにちんぽのかたちをしているようである。鶴見が手を伸ばしてきて、「ほら、ここに竿、こっちにタマを入れられるようになっている」と、まるで高機能の財布を説明するように教えてくれる。
 なるほど……とどこか他人ごとのように聞いていた月島だったが、はっと気づいて鶴見を見上げた。
「もしかしておれが着けるんですか」
 鶴見は優雅に笑って、
「そうだぞお」
 と言った。マジか……呆然とする月島に、鶴見は「頑張って編んだんだぞ」、「絶対に似合う」、「月島がちんぽニットを着けているところを見てみたい」などと言いつのる。そして上背が月島より高いのに、器用にも首をかしげて上目遣いで月島を見つめてくる。
「おれの誕生日なのに、だめなのか?」
 哀しげな目が月島を射抜く。こんなものは泣きまねとおなじだ。哀しんでいるふりだけだ。ほんとうは哀しくなんかないんだ。ああ、でも……
「……着けます」
 月島が死んだ目でそう宣言すると、鶴見は歓声を上げて、月島の頬にまたくちづけた。そのままズボンを脱がそうとするので、月島は慌てて「洗面所! 洗面所で着けてくるので!」と声を張り上げた。鶴見は残念そうに、「着けてやるのに」と言ったが、月島は絶対に嫌だった。

 未練たらしく引き留めてくる鶴見を振り切って、洗面所に入った月島は、まず帽子とマフラーを丁寧にたたんで棚に置いた。そしてズボンとパンツをおろす。ぶら下がっているちんぽを見て、おれはなぜこんなことをしているんだという気持ちが一層ふくらんだ。沈みそうになるこころを奮い立たせてちんぽニットをひらく。
 鶴見に教えられたように、長く伸びた部分に竿を入れていくと、なんだかおそろしくちんぽにフィットすることに気づいた。いつの間にか採寸されていたのだろうか? まあおれのちんぽのことはおれよりも鶴見さんのほうが詳しいだろうしな。ほのかに照れのような感情がわきあがったが、タマをニットに詰め込むときにわれに返ってふたたび死んだ。ちんぽニットはタマにもしっかりフィットした。
 垂れる紐をどう結べばいいのか悩んで、ちんぽのうえでちょうちょ結びにしてみると、なんだか月島のちんぽはサンタクロースのプレゼントを入れた靴下のような様相を呈した。間違いではないのかもしれない。鶴見は「これはわたしへのプレゼントでもある」と言ったし、月島がちんぽニットを着けることを望んでいたし、そうするとちんぽニットにつつまれた月島のちんぽは鶴見へのプレゼントなのだ。
 くっだらねえこと考えてんじゃねえ。
 月島はパンツとズボンを引き上げて、鶴見が待つリビングへと向かった。

 月島がリビングに戻ると、鶴見は目をきらきらさせ、ぱちぱちと拍手さえした。
「脱いできてよかったのに」
 実際、月島もズボンとパンツを脱いでいくべきかほんの一瞬悩んだのだが、下だけを脱いで半裸で、あるいはちんぽニットだけを残した全裸で、クリスマスカラーのちんぽをぶら下げて歩く自分を想像してやめたのだ。
 鶴見は月島をソファへ導き座らせると、足もとに跪き、ズボンをゆるめてパンツを押し下げ、ちんぽニットにつつまれた月島のちんぽを取り出して顔を寄せた。そしてくんくんとにおいを嗅いでいる。ちんぽニットの隙間から、鶴見の呼気が月島のちんぽをくすぐった。しばらくそうしていた鶴見が、顔をあげて期待に満ちた目で月島を見る。
「勃起できるか?」
 わくわくしているらしい鶴見の顔は輝くようで、月島は何でも期待に応えてやりたい気分になった。しかし、応えてやりたくとも応えられないこともある。
「無理です」
 月島はきっぱりと言い切った。表情を曇らせる鶴見に月島はつづけて、
「これ、ちくちくしてものすごく不快です。あなたも着けてみたらわかるんじゃないですか」
 少し責めるような口調になってしまったが、鶴見はどこ吹く風で平気な顔をしている。
「わたしは肌が弱いからなあ」
 と言って、月島の太ももに頭を預け、ちんぽを持ち上げたり嗅いだりする。普段だったらとうに勃起して、「もう我慢できません……!」となっていてもおかしくない状況だったが、果敢にもちんぽニットがそれを阻んでいた。
「ウールがよくなかったのかな? カシミアにしたら勃起できたかもしれないな」
 ちんぽニットにくちびるを付けてふうっと息を吹き込まれ、少し硬くなる気配があったが、鶴見がつづけて「こすったら痛いかな」などとおそろしいことを言ったので即座に萎えた。付けているだけでちくちくするちんぽニットをかぶせたまま、ちんぽをこすられるなんて、考えただけでぞっとする。
「もう外していいですか……」
 ぐったりとして月島が言うと、鶴見は思案する顔で、
「そのまえに、写真撮ってもいいか?」
 などと訊ねてきて、月島はちからをこめて「嫌です」と返した。鶴見は不満げな顔をしたものの、承諾されるとはそもそも思っていなかったらしく、あっさりと引いた。
「まあ、見たくなったらまた付けてもらえばいいか」
「勘弁してくださいよ……」
 言いながら月島がちんぽニットを外そうとした手を鶴見が払い、ゆっくりと不格好なちょうちょ結びを解く。楽しそうな笑みを浮かべて、手を月島のちんぽの下にもぐらせると、ニットがタマにこすれないようにしながら取り出した。そのあとも丁寧に月島のちんぽをちんぽニットから解放していく。月島はその気遣いにきゅんときたが、そんなに気をつかってくれるくらいならはじめから着けさせないでほしいとも思った。
「あーあ、外れちゃった」
 残念そうに言い、鶴見はちんぽニットをソファのすみに置いた。「毛糸がついちゃったな」と言って、むき出しの月島のちんぽにキスをする。鶴見の言うとおり、月島のちんぽには赤と緑の毛糸屑がところどころについていた。それを鶴見が大きく舌を出してべろりとなめとる。ちんぽニットがなくなったいま、もはや月島の勃起を止めるものはなかった。
 鶴見は月島のズボンとパンツを脱がせて、月島の尻の下にそれを敷いた。硬くなりはじめた月島のちんぽにどこからか取り出したローションを垂らし、ぬるぬると指を絡めた。月島は息を荒くしながら、着ていたスウェットを脱ぎ去る。鶴見は片方の手で竿をしごきながら、もう片方の手指で浮き上がった血管をたどり、亀頭の段差をくすぐる。
「気持ちいいか、月島?」
 返事をする余裕もない。月島の頭のなかはもう、出したいという思いで埋め尽くされている。目を閉じると濡れた音と鶴見の息遣いが聞こえて、よけいに射精感が強まる。ぐう、とのどから呻きが漏れて、鶴見は笑ったようだった。脚の付け根に息がかかり、じゅうっと音を立てて吸い上げられる。その瞬間、月島は鶴見の手のひらに射精した。
「いっぱい出たな」
 ティッシュで手のひらをぬぐいながら、楽しそうに鶴見が言う。息を整えていた月島は鶴見をソファに引き上げて、夢中でくちびるを吸った。舌を絡めながら手さぐりで鶴見の服をゆるめ、鶴見がそれを脱ぎ捨ててゆく。くちびるを離すのが惜しくて、上をなかなか脱がせられない。裾から手を入れて脇腹をたどると、鶴見の舌がひくんと震えた。
 いつまでも吸い付きたがる月島の胸をやさしく押し、鶴見が体を起こした。唾液でべとべとになったくちびるを見せつけるように親指でぬぐい、月島の太ももをまたぐ。服をすべて脱ぎ捨てて、月島のちんぽに手を伸ばす。
「また硬くなってるぞ」
 硬くした張本人が嬉しそうに言う。なにか言い返そうかと思ったが、言葉にならなかった。鶴見は自分の立ちかけのちんぽを、まだぬるぬるしている月島のちんぽにすりつけた。鶴見のちんぽは本人同様色が白くて、がちがちになってそびえたつ月島のちんぽと並ぶといくらか上品に見える。ちんぽっていうよりおちんぽって感じだな、月島はそう考えたが、くだらなさすぎて一秒後には忘れた。
 月島は鶴見がどこからか取り出したローションのボトルをひろって、手のひらにこぼした。それを見ていた鶴見は、熱い息を吐き、月島に覆いかぶさるようにして尻を持ち上げる。腹と腹のあいだでちんぽがこすれ合い、鈍い快感を生む。
 すぼまった尻の穴にローションをまとわせた指をあてると、容易く?み込まれた。なかはやわらかく湿っていて、月島は息をのむ。
「はやくおまえとしたかったんだ」
 鶴見がささやく。たまらなくなって指を増やせば、鶴見の息がわずかに乱れた。
「キス、キスしてください、」
「ふふ、どうしようか」
 月島の懇願に鶴見は意地悪く笑ったが、笑ったままのくちびるがすぐに押し付けられた。くすぐったい髭の感触をあじわいながら舌をぬるぬると絡め合わせ、くちびるを舐めていると、さしこむ指を増やしなかを広げていくほどに鶴見が鼻にかかったような声を漏らしているのを直接感じ取れる。
 ん、ん、とのどを鳴らす音が甘くとけはじめ、もう入れる、絶対に入れる、そう決心し月島は指を抜いて肩をつかんだが、鶴見は倒れようとしなかった。むしろ、虚をつかれた月島を突き倒し、腰に乗りあがってくる。鶴見の意図を理解はしたが、不満げな顔をする月島に、鶴見は「今日誕生日なのはだれだ?」とささやきかけた。月島はあきらめるしかなかった。
 鶴見は落とした衣服のなかからコンドームを取り出すと、慣れた手つきで月島のちんぽにかぶせた。硬さをたしかめるように、二三度撫でていく。手を添えて、ゆっくりと腰を沈めていった。
「ふ、ふふ」
 月島のちんぽを呑み込むとき、鶴見はいつも笑う。ちんぽを熱くてやわらかい粘膜にしめつけられ、余裕を失いながらその笑いを聞くと、からかわれているようにも思う。しかしだんだん笑ってもいられなくなって、せつなそうな表情に変わっていくのはまったく悪くない。腰をつかもうとして伸ばした手を手で絡めとられて、鶴見の尻が月島の下腹まで落ちた。はあ、と鶴見が息を吐く。
「ここまで入ってる気がする……」
 へそのあたりに手を当てて、鶴見が言う。陶酔したようすに月島はかなりぐっときたが、なんでもないふりをして、「そんなわけないでしょう」と返した。
「わかんないぞ。月島のちんぽは大きくて、太いし」
 言いながら、鶴見は尻を持ち上げる。穴のふちにしぼられてびくつくちんぽを、抜けてしまいそうなぎりぎりまで吐き出してから、またじっくりと呑み込んでいく。繰り返すうちに動きは速くなり、手はほどけた。邪魔をされずに腰をつかんで、タイミングを見て引き下ろすと、鶴見の体がびくびくと跳ねた。仕返しのようにぐるりといやらしく尻をまわされて、こんどは月島が息を詰めるはめになる。
「あ、あ、あ、」
 鶴見が抜き差しをやめ、月島のちんぽを腹のなかにあるふくらみにすりつけはじめた。いつもはっきりとした視線をよこす黒い目がいまは潤み溶けて、くちびるが淡くひらいて舌が浮く。ぽたぽたと唾液が月島の腹に落ちる。やがて、鶴見の喘ぎ声がゆるやかに伸び、月島のちんぽをねぶるようにしめつけながら動きを止めた。
 まだ足りない。
 月島はちんぽをなかから抜き出して鶴見の脚を持ち上げ押し倒し、ふたたび分け入った。射精するための速さで腰をふる。鶴見が逃げそうに体をねじるのをとどめて、一心にやわらかい肉へもぐる。つるみさん、つるみさん。繰り返し名前を呼び、鶴見が声を震わせながらうん、うんと応じるのを聞きながら、月島のちんぽは精液を吐き出した。
 息を切らしてぜえぜえやりながら、月島は鶴見の肌を噛んだ。太もも、脇腹、腕、手のひら。鶴見の皮膚は薄いのか、ささいなことで簡単にあとが残ってしまう。だから幾度もの失敗を経て、月島は痛々しい歯型をつけずに噛む強さを学習していた。くすぐったいのか、鶴見がくすくす笑っている。
「うまいか?」
「ふぁい」
 月島の頭を鶴見が撫でる。坊主頭は鶴見のお気に入りで、隙あらばしょりしょりと撫でているが、いつもの手つきとちがって指さきがいやらしかった。うなじの生え際をくすぐられ、ぞくぞくと背筋に震えが走る。また勃起してしまいそうで、月島は腰を引いてちんぽを抜いた。ううん、と鼻にかかったような声が聞こえた。
「……ゴム、まだありますか」
 ちんぽから外したコンドームの口を縛りながら月島が言うと、鶴見はにやっと笑ってさっきの服からまたコンドームを取り出した。ざらざらと鶴見の腹に落とされたパッケージは六個。月島がつかったぶんを足せば、七個あったわけだ。
「何回するつもりだったんですか」
「たくさん。誕生日だからな」
 鶴見が満足そうにそう言って、かかとで月島の腰を撫でる。欲情で頭がくらくらした。血液がちんぽにとられているせいかもしれない。パッケージをひとつだけとってあとは床に落としてしまうと、鶴見が「ああん」とあきらかにふざけた声をあげた。
 クッションをはさんで尻をあげさせ、ローションを足した指を鶴見のなかに埋める。いちど月島のちんぽを呑み込んで達して、ゆるんだ穴は従順に月島の太い指を受け入れた。鶴見は感じ入ったふうに長く声を伸ばしている。二本、三本と指を増やすと、赤いくちがいっぱいにひらいて、動かすほどにローションが濡れた音をたてた。
「そんなに、やらなくてもっ、入るぞ」
 ぐにゅぐにゅと指をしめつけながら、鶴見が切れ切れにそう言った。月島は「そうですね」と請け負ったが、指は抜かなかった。うー、と鶴見がうなるのが聞こえる。
「なあ、なあって、つきしま」
 鶴見の長い脚が月島をはさむ。切羽詰まったような声だが、月島はこれがただの茶番だと知っている。月島のための茶番だ。鶴見は月島がほしい言葉を知っていて、月島は鶴見が言ってくれると知っている。
「つきしま、」
 もぐりこんだ指に息を乱しながら、鶴見が言う。
「おまえのちんぽがほしい」
 月島は晴れがましいような気分になりながら、やっぱりこれだよな、と思った。鶴見が言うべきちんぽは月島のちんぽであって、断じてちんぽニットなどではない。鶴見は笑いながら、指を抜いていそいそとちんぽにコンドームをかぶせている月島を見ている。
「おまえはほんとうに、おれに求められるのが好きだなあ」
 ばれているとは思っていたが、心情をそのまままるごと言いあらわされて、月島はぐっとのどが詰まった。そのとおり、月島は鶴見に求められることが好きだった。年上で、頭がよくて、顔がよくて、性格はやや難ありの鶴見が、月島を求めているのだと知ることは、月島にとって大切だった。
「すみません、あなたの誕生日なのに……」
 せっかくコンドームをかぶせたちんぽが萎えてしまいそうに月島がうなだれると、鶴見が手を伸ばして月島の肩を撫でた。そして「いいんだよ」と言い、
「おれは、遠慮深くて、我慢強くて、腹ぺこの子どもみたいな目をしているおまえを、満たすのが好きなんだ」
 微笑んだ鶴見に月島は一瞬感動しかけたが、ふと気づいた。
「なら、ちんぽニットは何だったんですか」
「あれは純粋におれが見たかったから」
 月島は不機嫌を顔にあらわし、つっけんどんに「入れます」と言って、ちんぽを鶴見のなかに入れていった。やっぱり鶴見は呑み込むときに笑っていた。
 陰毛が尻につくほど奥まで、根もとまで入り込んで、月島がひと息つくと、鶴見がなかをぎゅっと締め付けて感心したように言う。
「かたい。若いなあ」
「そんなに歳変わらないでしょう、おれたち」
「四月までは、おれがさらに一個上だ」
 鶴見はなぜか得意げにしている。誕生日のずれで生じる一歳差など、誤差の範疇にすぎないのに、鶴見はたまに子どもっぽい。
 しばらくにやにやしていた鶴見が、ふいにむずがるような表情を浮かべる。
「こんどはゆっくりするのか?」
「はい」
 根もとまで入り込んだまま、ちんぽは動かさずに鶴見の体をいじる。腰骨、脇腹、やわらかい胸筋。月島はすでに二回射精したから、ある程度は余裕がある。「好きでしょう」、と言うと、やや納得しかねるような響きの「うん……」という声が返った。
「あなたの誕生日ですからね」
 鶴見は月島が激しく求めても応じてくれるが、ゆったりとまどろむようなむつみ合いのほうが好きなのだろうと感じる。落ち着いて、互いに肌をさぐって、たくさんキスをするほうが、余裕をなくす。月島はどうしてもだんだんじれったくなって性急にゆさぶってしまう。そうしても付き合ってくれるし、それはそれで気持ちいいようではあるが、今日は鶴見の誕生日で、月島に余裕があるいま、鶴見の好きなように抱きたかった。
 鶴見も手を伸ばして月島の肌にふれる。というより、筋肉の隆起をなぞっている。じわじわとくすぐったい心地よさを感じていると、ふと鶴見と目が合う。鶴見は少し体を起こして、月島は少し首を伸ばした。くちびるがふれあって、こぼれてきた鶴見の舌を吸う。絡め合う。そのうちに鶴見が顔を引いた。
「なあ、月島、吸って……」
 鶴見が胸に手を当て、指のあいまから立ち上がった乳首をしめす。月島は求められるまま鶴見の胸に顔をうずめ、充血して赤っぽい色をした乳首と乳輪をくちびるで食んだ。そのままじゅうっと音を立てて吸い上げると、鶴見が月島の頭を抱え込んでよがる。気持ちいい、とささやかれる。歯をあてると月島のちんぽをつつんだ粘膜がびくびくと震えた。
 そうやってさわりあって、キスを交わして、気を散らしても、だんだんと互いに余裕が失せてきた。月島はちんぽをしめつけられて耐えがたくなるし、鶴見もちんぽをしめつけてしまって耐えがたいようだった。動いていいですか、と訊ねると、鶴見は眠そうにも見える潤んだ目で、
「はやくしろ」
 と言う。月島は仰せのままに、また仰せにさからって、ゆっくりと腰を引いてちんぽを抜いていった。あー、と鶴見が声をあげる。また月島のちんぽが入っていくときにもおなじ声をあげた。ぬるま湯のような快感に浸っていると、だんだん鶴見の声が小刻みになり、なかの震えが深くなっていく。ああ、きたんだな、そう思って、月島は上から押しつぶすようにちんぽを奥までねじ込み、鶴見が救いをもとめるようにして伸ばしてきた手と舌を受け入れながら射精した。
 月島がちんぽを抜いたあとも鶴見は思い出したようにぶるりと震えた。鶴見の腕のなかでぎゅうぎゅうに抱きしめられながら、じかにそれを感じる。その間隔がやがて間遠になって、落ち着いてきたころに、鶴見はつぶやいた。
「腹が減った……」
 おれのちんぽをさんざん食ってたくせに? 最低の冗談が月島の頭に浮かび、しかし言わずに打ち消した。自分をふりかえってみるとたしかに腹が減っていた。今日の夕食は鶴見が昨日から凝ったものをつくっている。誕生日のディナーを本人につくらせるなんて、と思いはするのだが、月島はせいぜい炒め料理くらいしか満足につくれないので、粛々と鶴見の指示に従いバターを練ったり生地をこねたりするだけだった。
 とにかく、それらは、温めれば食べられるはずだ。
「おれが温めましょうか」
 申し出たが、鶴見は胡乱な目をして「おまえ、盛り付けが下手だからなあ……」と言う。ぐうの音も出ない。月島が黙ってしまうと、腕がゆるんで頭を撫でられた。
「もう少ししたら、おれがやる」
 まだこのままでいてくれ。首にからんだままの腕を感じながら、月島はじわじわと胸に湯のような幸福感が満ちるのを感じたが、鶴見の頭のそばにあのちんぽニットを見つけて、わずかにその湯がさめるのも感じた。