Let's study insect!
あっ、パパ! おかえり! うん、いい子にしてたよ。きょうはね、さっきまで修理のお手伝いしてた。いまは休憩。じょうずだねって。パパに似てるねって言われたよ。ぼく、パパに似てる? うれしいなあ。
この本? このあいだ来た、キャラバンのひとがくれたんだ。昆虫図鑑だって。重いし、売れないからあげるって。おもしろいよ。いちばんおもしろいの? わかんない。ぜんぶおもしろいもん。”かぶとむし”とか、”くわがた”とか、”ちょうちょ”とか、こんなちっちゃくってへんてこな虫、ほんとうにいたのかな。肉とかじゃなくて、木の汁とか、花の蜜をなめるんだって。ええ、パパは見たことあるの? ほんとに? つかまえたの!? へええ、すごいなあ。ぼくもいつか見てみたいなあ。写真じゃなくて。でも、みんなばくだんで死んじゃったかなあ。
そういえばパパ、「さむらい」ってどういう意味? ソルジャー? へええ。にほんご? にほんご、ぼく知ってるよ。ダイアモンドシティのタカハシがしゃべってるみたいなやつ。ん、んん、あー、『なんにしますかー?』、似てるでしょ? ミスター・ケロッグも、ぼくのまねは似てるってほめてくれたもん。彼があれはにほんごだって教えてくれたんだよ。ミスター・ケロッグはすごく物知りなんだ。いっぱい、いろいろ教えてくれた。楽しかったなあ。ミスター・ケロッグが教えてくれたのはね、ほかにはねえ……、
さむらい? うん、そういう名前のアリがいるんだって、この本に載ってるの。パパ知ってる? 知らないの? じゃあ、教えてあげよっか? なら、ぼくが先生だね。パパは生徒だから、そこに座っていい子にして、静かに聞いてね。
こほん。さむらいありは、このっくらいの、すっごくちっちゃい、ぜんぜん、何にもできないアリです。でも、戦うとすっごく強いアリです。戦うことしかできません。だから、ほかのアリの巣に、攻めていって、おとなのアリを殺しちゃうんです。それで、たまごとか、まゆとかを、自分の巣に持って帰っちゃいます。ええっと、それで。うん、たまごとか、まゆから生まれた赤ちゃんアリは、さむらいありが自分のパパとか、ママとかを殺したってこと、わからなくって、さむらいありをパパとかママとかだって思って、さむらいありのどれいになって、いっしょうけんめいはたらきます。死ぬまでずっと。赤ちゃんアリがおとなになって、死んじゃったら、またあたらしい赤ちゃんアリをさがして、さむらいありは出かけていきます。おしまい。
パパ、でも、おかしいよねえ。どうして赤ちゃんアリは、さむらいありが自分のパパとママじゃないってわかんないのかな? 赤ちゃんだから? アリだからかなあ。ぼくわかるよ。パパに会ったことなかったけど、ちゃんとパパだってわかったもん。だってパパはぼくのパパだから。ね、おかしいよね。
あれ、パパ、どうしたの? なんで泣くの?